ムクロジ

羽子板の羽根の黒い玉がムクロジの実の種を使っていたのだと、緑色した指貫くらいの果肉で包まれた実を拾い集めていた、おばちゃんが教えてくれた。明治の時代くらいには、プラスチックなどなかったのだろうから、そのようにしたのかと納得した。すると、ムクロジの黒い種玉に生えた羽は何を使ったのかが気になり出した。そこで、ぐぐったたら、羽子板を打ち合う様は蜻蛉が飛ぶ姿の疑似であり、とんぼ返りの擬態と知れた。それらを打つ子供らの無病息災を祈る、益虫である虫が子供らを蝕む病を喰い尽くすようにとの願掛けのようだ。

まさか、あのとんぼの羽を毟りとってムクロジの実に付けたのかなとなった。毟られた蜻蛉たちも災難である。

すると、毟る男の顔に、クレムリンの椅子に座るあの大統領の顔が浮かんできた。誰もいない執務室でとんぼの羽根をひたすら蝕るひとりの男は、一幅の絵になりそうだ。

題名は、『平和の羽根を毟る餓鬼』となった。

よく見れば、羽を毟り散られた、大きな目玉頭の唐辛子は、いまの彼そのものに似ており、蟻地獄にはまり込んだ、解決の糸口さえつかない現状を暗示するように、愚かしくもがき苦しんでいた。