谷中の墓地

 ラブホテル街を駅北口から日暮里側に迷路を抜ける手前で、線路を渡る高架橋が目にとまった。ずいぶんと年代物の渡り橋である。登り口の階段も随分と急峻な年代物の高架であり、表面塗装が剥げ落ちている。一瞬、渡って大丈夫かとの想いが頭を掠めた。横断に支障があるのなら、通行禁止表示が出てるだろうから、向こう側が谷中の墓地となれば、風情として合っていそうだ

 前日は常宿が満室で、近場のネオン煌めくお宿となった。寝るだけなので適当に入店したが、食料の買い出し後に戻るのに苦労した。立ちん坊のお姉さんに、見咎められ、

 『出て来たところが見つからないで、迷った!』と言うと、笑われた。宿を物色中に、辻の曲がり角で、目が合ったので、

 顔馴染みかな?となっていた。

 朝買い出しに出ると、人の流れが向かう方向に駅があることが知れた。何故か、セブンイレブンを探し、コーヒーと靴下を購入した。持ち帰りに思案していると、見かねた店員さんがカップホルダを手渡してくれた。

 入店時に目当ての物を探しまわるのも億劫なので、レジで靴下売場を聞くと、エンド下方のフックハンガーに掛かった、黒の靴下陳列棚の前まで案内してくれた。サイズがSとMの2種類で、一瞬躊躇い、小さい方を選んだ。

『こちらは女ものですよ?』と言われ、彼女と目が合った。

『種類って、これだけだよね?』と聞くと、そうだと頷いた。

 先程から、その彼女は私がドリップコーヒーを2つ抱えて、思案しているのを見ていたようだった。

 架橋を渡ると、崖っぷちの登り口の向こうに、墓標が両側に広がる、大きな墓地のメインストーリーが見えて来た。振り返ると墓石の上方に都会のビルが遠く見渡せた。