待ち合わせ

 相場分析に飽きが来たので、図書館経由でジムへ行き、帰り道でランニングの構想で出掛けたが、少し無理があるなと気付いた。元々は、朝のトランザクション処理を実行している間に、早朝ランニングで、1日が始まっていたのが、寒くなったこともあり、日課のスケジュールが元に戻りそうもない。

 図書館を出た少し日が傾いて夕暮れ時の空に半月が、大きな樹の梢の上に上がっていた。

 ジムでベンチプレスをしていると、待ち合わせの彼女が、仕事帰りでやって来た。しばらく、ストレッチ体操をしていたが、ベンチプレスを一緒にやることになった。重りを彼女に合わせて、20分交互にトライアルした。

 『金曜日夜どこか都合つく?』

 『うん?』

 『就職祝いしてやる!』

 『落ち着いてからでいい、仕事続いてたら?』

 『よく見れば、娘に似てるな!』

 『若い頃は可愛いかったんだ!』

 『いまも可愛いの!』

 以前、彼女が娘同伴でジムに来たのに遭遇した、ほとんど初めて口をきく、20代の娘に、

 『お、可愛いじゃん!』と本人目の前に軽い乗りでことばを吐くと、

 『皆さんからそう言われます。』とあっけらかんと返され、二人でお互いに笑った。

 その笑った面影が、見下ろしたベンチから見上げる、母親の顔の内に、娘の笑った顔の輪郭が浮かんでいた。